水がある限り金魚は泳ぐ

本と読書と映画とドラマ、そして雑文。

「30秒の狙撃兵」主人公に生きて欲しいとひたすら願った記憶

 お願いだから死なないで欲しい。

 そのドラマを観ながら、ひたすら私は願った。 

 

 そのドラマは青春の昭和史II 「30秒の狙撃兵」中村雅俊さんが主演、1979年に放送された、伝説のCMディレクター杉山登志さんのことを描いたドラマである。

 事前知識がなかったこともあり、もしかしたら死なないでいてくれるかも、とさえ思ってドラマに没頭していた。実在の人物だと提示していたはずなのに、なおも、死なないで欲しいとひたすら願っていた記憶が鮮明に残っている。しかし、1973年、彼は自らの命を絶った。

 

 本当に、ただひたすら死なないで欲しいと願った。中村雅俊さんの熱演もあっただろうし、共演者さんも素敵で、演出にものせられた。ドラマとして良かった以上に、CMという、「ものづくり」のフィールドを得た彼に、それを武器に戦い続けて欲しかったと願っていた思う。

 以下は杉山さんが残した一文。まるで、彼の武器が彼を殺したような気さえする。

リッチでないのに

リッチな世界などわかりません

ハッピーでないのに

ハッピーな世界などえがけません

「夢」がないのに

「夢」をうることなどは・・・とても

嘘をついてもばれるものです

 

 ドラマを観たときは私もまだ若かったこともあり、彼の残した一文が、死を選択する理由にならないと思っていた。本当にこの主人公には、生きていて欲しかった。バカがついてもいいくらいの、ただの一念である。しかも、今は私も、広告をつくる世界の端っこにいるのだが、まだあの一文が、死を選択する理由じゃないような気がしていたりする。心に染みる一文であり、胸に刻んでおきたい言葉ではあるが。

 後進を育てるのが上手かったということである。そのことがとても嬉しい。

 

 2006年に藤木直人さんが杉山さんを演じたメッセージ 〜伝説のCMディレクター・杉山登志〜という作品も作られてる。