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「それでも夜は明ける」〜痛みと理不尽の世界に未来はない

それでも夜は明ける [DVD]

 

 1861年から1865年にかけてアメリカで起こった南北戦争。それ以前、1841年にワシントンD.C.で誘拐され奴隷として売られたソロモン・ノーサップの体験記がベース。

 

 「PLAN B」の名前がオープニングにあったことから、ブラット・ピットが所有する映画制作会社が作品に関わっていることを心に留めてみることにした。最初は社会性のある佳作の印象だったが、今や信頼できる作品に関わることが多いと言われている。彼がどれだけプロデューサー業に関わっているかを知る術は私にはないが、2011年の「マネーボール」とういう作品以降、ずっと気になっていた。

 

 冒頭のソロモンの家族の団欒、ご近所との穏やかなやりとりから一転、両手両足を鎖でつながれることになる。物凄い戸惑い。当たり前だ。バイオリンでお金を稼げるアーティストとして生活してきたのだ。簡単に受け入れられるはずもない。

 日本でもたくさんの人が「家」に住んでいる。借家でも持ち家でも。ソロモンもそうだった。だが、奴隷として売られたソロモンは、掘建て小屋で暮らし、粗末な食事で労働を強要され、一方的にムチ打たれる。逃げようとしたこともあるが、その途中、見つかって首に縄をかけられ殺された黒人を目の当たりにする。彼はソロモンではあるが、プラットと呼ばれていた。彼はソロモンならば殺されなかったが、プラットである限り、同じように簡単に殺されることを知る。

 何度もムチで打たれる場面があり、奴隷として働く者たちの背中はとても痛々しい。心も枯れ果てて虚な目もまた、観る側の痛みになる。彼らを積極的に助ける側に立つ登場人物はいない。願うがいない。

 プラットは何人かに希望を託し、自分が黒人を奴隷として労働させない地で生活していることを証明しようとするが、なかなかうまくいかない。やがて出会う、自由な考え方を持つ、家づくりの職人が密かに動くことで、プラットはソロモンに戻り、12年ぶりに家族と再会する。

 この映画は奴隷たちの痛みを和らげる人物がいない。代わりに、この歴史に刻まれた暗黒の制度に利した者に、必ず報いがあることを明確に表している。晩年のソロモンの活動でも、白人を罪に問えなかった部分もあり、また、現在においても、完全に問題が解決したとは言い難い。だが、人を攫い、売り飛ばし、所有することを「是」とする世界に、未来はないのである。