水がある限り金魚は泳ぐ

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「ゴールデンスランバー」〜逃走劇とギリギリのライン

ゴールデンスランバー [DVD] 

 

 事の始まりは、ギリギリのところで踏みとどまった友人の死。そのとき、画面は逃走劇が最高に面白くなるカメラワークになる。テープが切れた、ファンファーレがなった、主人公の人生が切り替わる、瞬間。位置がわかる、爆破がわかる、敵がわかる、組織が見える。ぐいぐいと引っ張っていく、先の見えない人生のスタート。配送業を生業にしようと仲間と生きていく道から思いっきりそれる。急転直下。

 人気のアイドルを助けたお人好しの青年は、彼を知る人なら誰もがありえないと思う大統領候補殺害の犯人にされる。そして用意された人生は、犯人として命を落とすこと。それで幕引きがされれば、とある陰謀の隠蓑となる。

 

 逃走劇の中で走り続ける彼は、望んだ道にから離れて、陰謀の成立のために用意された最悪のシナリオからも離れて、その間を縫うように生き延びようとする。バンドをしていた仲間との青春が絡み、挟み込まれる。

 あの子はやっていない、と。逃げろと、生き延びよ、と。

 彼が色濃く引き継いだであろう気質が、マスコミに囲まれて父によって表現される。間隙を縫い、ギリギリを走っていた彼は、その父のおかげで踏みとどまり、絶壁の崖も落ちずにいた。政府の組織にいた協力者の男性は、また別の道を彼に提示する。生き残る道を。

 何度も、彼の逃走劇のスタートをつげた友人の死が思い起こされる。青春を思い出させる曲、命令されたように友人を犯人に仕立てて殺すはずが、最後まで友人である道を選び、自らを犠牲にした。

 

 ギリギリのラインがある。

 選択肢のどちらを選ぶかに正義も悪もへったくれもない。どんななマスコミの報道も組織の発表も信じられないかつてのバンド仲間は彼を信じていた。

 逃走の途中で、父が息子の無実を信じる封土をみて、食事を提供していた女性が、通報をしようとする客の男をとめて、見て見ぬフリをしようとした。彼が助けたアイドルは、いつか恩返しをすることしか考えてなかった。

 ギリギリを走っていて、倒れそうになったとき、落ちない持ち手、足を置く場所、脱水を防ぐわずかな水、生きる糧が現れることがある。ご都合主義に現れるとは限らないが、まったく、現れないとは限らない。

 生き延びるというある意味、正解とも言える人生の道から体を翻し、友人たちの元へ戻ることを決めた主人公の潔い選択。逃走劇のさなか、生き残り、自分らしく生きる道を彼は選んだ。ギリギリのラインで。

 ゴールデンスランバー。それぞれの時間。胸にある自分らしさが道を選ぶのだ。