「ワールド・ウォーZ」繋ぎ止め、受け渡すのは、人間の存在証明
圧倒的な存在感の主人公がいれば、他の登場人物の存在感が薄くなりがちだ。しかし、この映画、ブラビ演じる国連職員ジェリー・レインが、未曾有の事態への対抗手段を読み解きは、彼が決死の道のりで出会った人々の存在なしにはありえないのである。
人類の希望でもあった若いウィルス学者は、最初の方に簡単に死ぬことになる。実はいかにも頼りない彼が、飛行機の中でジェリーに言った言葉が、ジェリーの思考を柔らかくしてくれていた。
韓国の足の不自由な兵士、幽閉された元CIA職員の言葉は重要なキーワードだった。
イスラエルでみたZが避ける地元の人がジェリーの考えを裏付ける。また、そこで出会った若い女性の兵士を助け、同行することにより、ジェリーは自分の生命の危機も乗り越える。おそらく彼女なしには、アイルランドのWHOまで辿りつけなかっただろう。
つないでいる、人の存在のリレー。
それが決定的だったのは、WHOの3人の学者が見せた、些細とも言える連携だった。ピンチも招いたが所長クラスの男は、ジェリーと兵士が別棟まで行く案内役をかってでた。別の男は勇気をもって、扉を開き命を助けることで士気を上げた。女性の研究者は取り残されたジェリーを監視カメラで見つけ、パスワードの数字を内線電話で伝えた。この彼女の機転なくして、この映画の中で人類は救われることはなかっただろう。
もちろん、家族を愛し、常に生存確率が少しでも高い選択をし続けた主人公の活躍はある。しかし、彼は知っているのである。回想シーンのようにそこれまで出会った人の顔が浮かべたのは、その答えはそれまでに出会った人が、かすかな希望に繋がる道へと、自分を導いてくれたことを。
そう、まず、あの若いウイルス学者。それから。そう、次々浮かぶ登場人物。命を落とした人も少なくない。だが彼らの存在がジェリーをひとつの正解へ導いたのだ。
高速で動くZの映像、ブラビの父親っぷり、と興味深く観るための要素は多い。機能しない宗教や政治への、ソフトであるが痛烈な皮肉も感じる。強いホラー映画ではないが、冒頭から弦楽器の音が心理的に恐怖をかき立てる。
動かなければ、生きるためには。
ビルに立てこもったとき、ひとつの家族にジェリー一家は出会う。この出会った家族は、自分の力で逃げ出した少年のみが助かる。
出会った人の存在は、道を示すものになりうる。そして、誰もが、道を切り開く存在になれる。実際は、自分の中に取り込めるのかどうかだ。
繋ぎ止め、受け渡す。そうやって人は生きてる感じがした。
町山智浩映画解説 史上最大のゾンビ映画『ワールド・ウォーZ』
↓リンクが消えると悲しいので引用させてもらいました。
腕力も強いジェリーだが、混乱の中で状況を冷静に把握しながら進んでいく勇気と、強い心に見ていてしびれる。生き延びる力がしっかりと描かれていて、心が弱っている人にぜひ見てほしい1作。10日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
http://mantan-web.jp/2013/08/09/20130809dog00m200006000c.html