水がある限り金魚は泳ぐ

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【そうだ、選挙に行こう】一票は軽くない、とても重いんだ。

 

 あるジャーナリストがTED Talks in Japanese | Translations | TED.comで、聴衆に語ってくれたのは戦争の始まりのエピソードだった。彼女は、耳にしたことがある多くの紛争地に取材に行っていた。カタチこそ違えど、どこも、戦争の始まりは同じだと言っていた。

 つまり、何気ない日常が一瞬で変わる、と。

 

「夕食はカレーにしよう」

 自転車を走らせてスーパーへ向かうお母さんの後ろから聞き慣れぬ車の音が聞こえてきた。振り向けば戦車が近づいてくる。戦争のはじまりを、紛争地ではそんな風に実感することが多いという。

 目を丸くしてびっくりするお母さん。家に帰ってください、と兵士に注意される。冷蔵庫は空っぽで、家族に何も作ってやれないことがまず最初の心配。でも、そのうち、頭が真っ白になる。 

 夏。この国にはまだ歴史にするにははやすぎる戦争の傷跡がくっきり残っている。あのときのお母さんと、ジャーナリストが訪れた紛争地のお母さんに、何も違いはない。これっぽちも。 

 

 自転車を走らせてスーパーへ向かうお母さんを再び仮定する。

 選挙速報を観ているお母さんを思い浮かべる。興味深げに観ている。

 さらに遡ろう。選挙速報の結果は、投票箱に入れられた1枚1枚の投票用紙が集計されてはじきだされてる。その集計用紙は投票会場のスタッフさんが渡してくれたときは真っ白で、そこにお母さんが、鉛筆を持ってサラサラッと名前を書いたとき、有権者の一票が産声を上げるのである。

 その一票が政権政党を有利にした一票かもしれない。

 その一票が野党の意見を指示している人が案外多い、という報道の根拠になったかもしれない。

 または、無効票になったが、近頃無効票が増えている傾向がある、という分析の資料になっているかもしれない。

 たくさんの票が正しいというわけではない。しかし、この国は、まだ、たくさんの人が投票している。たくさんの人が興味を持ち、選挙速報や、次の日の新聞の1面に注目する。

 そういう一つ一つの積み重ねが現状を作っているということを噛み締めなきゃならない時期にきていると思う。

 

 

 お母さんは、スーパーで買ってきた食材を家に持ち帰り、必要なものからまな板の上にのせ、コンコンと切り始める。その何気ない光景も、一票が機能したという、成果の一つだと思ったりするのだな。

 

 

 投票率は、下がれば固定の支持層を持つ政党が有利とされる。無党派層が動いても同じ結果かも知れないが、違う結果を導く確率が大幅に増える。

 ちょっと違う例えかも知れないけど、努力は報われるとは限らない。だが努力することによって、失敗する確率はともかくも、成功する確率は確実に増えることが大事だと思うんだ。

 

 一票は軽くない、とても重いんだ。

  

 

 

 

マガジン9『憲法9条Q&A』