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「根の深い木」やりたいことを叶えるために、全力疾走!

 

 ドラマ 「根の深い木」のラストのイ・ド(後の世宗)は全てをやり切ってせいせいした顔をしていた。

 ハングル文字創製を題材にしたこの物語の最終回は、新しい文字の公布というクライマックスを迎え、イ・ドとともに戦った登場人物たちが多く死を迎える。イ・ドの護衛武官、内禁衛将のムヒュルは、王を守るという自分の道を全うした。彼には彼の道があり、王の進む道を阻む者から王を守るため自らが盾になって命を落とした。文字にすべてをかけてタム(女官ソイ)は、自分しか知らない新しい文字の解例を書き記して息絶え、幼なじみで愛しい男性の目を通し、文字が公布される様を見届けた。そして、奴婢出身の兼司僕のトルボク(カン・チェウン)は、捨て身の戦法で無敵だと言われた敵を倒し、自分の目を通してタムとともに、新しい文字が公布される様を目に焼き付ける。

 「今日は、タムとトルボクにとって良き日です」

 トルボクはその言葉を最後にこと切れた。が、同時に彼は、自分のやりたかったことを自分の頭の中で叶えていた。タムと結婚し、子ども3人に恵まれ、長男に亡き父の名をつけ、その子どもたちに新しい文字を教えている、そのシーンは、現実とは違うやわらかい色調の映像になり、ラストシーンを希望に変える。

 

 秘密結社として生き残った密本は、新しい本元のもと、後の歴史に関わるために動き始める。イ・ドと緻密な頭脳戦を繰り広げたチョン・ギジュンは、イ・ドと最後まで議論を交わし新しい文字がもたらす混沌の時代を示唆しながらこと切れた。

 

 観る側にさまざまな思索を提供してくれるドラマだった。

 そして、イ・ドは、身覚えあるシーンで生き残った者のやるべきことを最後に私たちに示してくれる。

 イ・ド役は青年時代をソン・ジュンギ氏、大人になってからをハン・ソッキュ氏が演じている。2人の俳優が入れ替わった最初の場面が、イ・ドのラストシーンだった。

 新しい文字はもう、後世に託された。彼は彼の望む未来のために新しい文字を作った、ただそれだけで、それが自分の思う未来と同じとは限らない。イ・ドの望みとは全く違うが、新しい文字が地獄の門を開いたとしても、それは後世の人々が受け止めるしかないことだ。これからも、彼は自分の望む未来を探す。だからイ・ドは今日も、文字創製を軌道にのせようとしていた時と同じく大臣たちとの会議を精力的にこなそうとしていた。

 

 時代は、そこに生きる人のためにある。望む未来にたどり着かないかもしれないという不安は絶えずある。だが、進む方向は望む未来の方しかない。誰が何を言おうが、間違っていようが、だ。望む未来が、正しい未来かなんて、「現在」からはどうせ見えないのだ。

 

 自分の生きる時代の中で、やりたいことを叶えるために向かって全力疾走した登場人物たち。

 生き残ったイ・ドは、まだ時代の中にいる。そして、彼とともに戦った愛しい人たちの死を乗り越えて、以前の彼よりも大きくなったことを示すように、宮廷に咲いた花を愛でていた。